No.34

初めてのリップスティックが突然変異を起こして帰ってきた話

初めてのリップスティックを覚えていますか?

私の好きなメーカーは昔も今もカネボウです。もう今では花王に買収されてしまいましたが、逆にこの2024年春に花王のオーブ(ポイントメイク)がブランドごと消滅、カネボウのケイトが生き残るという人気度の差によってブランドやその強気でクールなイメージが残ることになりました。今も1位の資生堂や花王のオーブはどちらも無難フェミニン系のカラーや質感がかぶるからでしょう。

私の初めてのリップスティックはカネボウ・テスティモⅡの「スーパーリップ」です。色番はさすがに忘れてしまいましたがとにかくワインやレッドを1本ずつ、そしてポイントメイクリムーバーを買った覚えがあります。中学生が繁華街で見る女性たちはみなクールな顔をしていましたから、それが当たり前だと思っていたんです。髪を下ろせば相当にエキゾチックな人間に見えていたことでしょう。

この「スーパーリップ」、広告業界では木村拓哉さん、とにかく男性を起用したということで話題になっていました。カップルであることが当たり前という比較的保守的な価値観で、しかしながら強気な色のラインナップ。今ほどは白肌であることにみなこだわりはなく、ファンデーションなどの標準色は少し暗めで黄色みが強かったように感じます。「落ちない」ことに非常に重点を置いた製品で、残念ながら唇は荒れがちでした。

ここ数年で同じカネボウ内で話題になったリップスティックがありましたね。「リップモンスター」「リップモンスタースフレマット」です。こちらもまた「落ちない」ことを重視した製品です。違うのはその落ちない仕組みと、質感です。スーパーリップはとにかくマットで唇の湿度をすっかり奪ってしまっても更に乾燥を引き起こしましたが、リップモンスターはある程度唇の湿度を奪ってジェル膜を作り上げればそれ以上の乾燥をほとんど引き起こす必要はありません。唇に色を定着させること自体は同じでも、メカニズムが違えばこんなにも違うものか…と驚くべきところです。

ちょうど私が高校生だった1998年以降、このカネボウ・ケイトを一度も使ったことのない女性はほぼクラスメイトにはいませんでした。もう常識レベルで使ったことがあるんです。ただ、ギャル系はアイメイク一筋だったためアイメイクだけはケイトを、そしてリップは外資系ブランドを買う、といった人がすごく多かった気がします。美白系スキンケアコスメが流行った後はもう軽めの色も似あうような気がしてディオールのピンク・オレンジ系のキュートなツヤツヤリップを塗るようになっていました。この時はもう、口紅の形をしていてもほぼ色付きリップのような扱いで、落ちたらまた塗ればいいじゃない、という意識です。もはや落ちても誰も気にしないのです。もっともっと軽くカジュアルになったのでした。

しかしカネボウの技術は「落ちない」を諦めなかったのでしょう。人々の意識が口紅をリップクリーム代わりにしてしまっても、やっぱり口紅に戻したかったのかもしれません。そりゃそうですよね、発色のいいリップクリームじゃ本来のコスメ魂には響きません。なんだか納得いかないのを「まあ、いいか~」って流していただけですから。COVID-19、つまり新型コロナウイルスの流行蔓延のためにマスクが必要なアイテムになると、リップ製品とファンデーション、チークは置き去られました。私も肌色のBBクリームとパウダーだけで過ごしていました。でも…ここまでくると「まあ、いいか~」なんて言えなくなってくるんですよね。本当につまらなくて、飽き飽きするし、華やかさの一片も自分から取り去られた気分でした。元々派手なものを常に肌に飾るのが好きだった人は気まぐれに時々塗る私よりもずっとストレスが溜まったのではないでしょうか。

そこに颯爽と現れたリップモンスター。売れないはずがありません。不正な商売だから転売ヤーから絶対に買わないのではなく、衛生用品・医薬品・薬品その他化粧品やそして食料品は絶対に正当な店舗からしか買わないのが常識だと思ってきたため私はひとつたりともそういった個人から買うことはしませんでした。ああいった人々は他人の感情を理解していないのだろうと思いますが、化粧品というのは、特に自分を飾るための製品というのは自分を表現しようというもので、感情を揺さぶるそれを奪っておいて「売ってやる」という姿勢は憎まれて当然です。私は元々が非常にきつい強情っぱりですが、そうでない人を強情っぱりにさせるようなものです。しかも、安室奈美恵さん引退直前にコラボしたViseeのアイシャドウパレットの時よりもずっとストレスがかかった状態ですから…。花王に裏打ちされた生産力に転売ヤーの財力がかなうはずもありません。そのうちに店頭にずらりと並び、新色追加、限定色追加、スフレマット追加と追い打ちがかかり、転売ヤーは在庫の焦げ付きを隠せなくなったようでした。ご愁傷さまです。

1996年の「落ちない口紅」が2021年にまったくの新製品になって帰ってきたお話でした。畳む

Murmur